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福岡高等裁判所 平成6年(ネ)106号 判決

控訴人 百万両住宅株式会社

右代表者代表取締役 平田博通

右訴訟代理人弁護士 永松達男

被控訴人 ミリオンコーポラス高峰館管理組合理事長 外山憲一

右訴訟代理人弁護士 三津橋彬 笹森学 田中峯子 吉田康 鈴木高志 石川善一 花井増實 折田泰宏 中村広明 河村利行 石口俊一 吉野正 中島繁樹 村井正昭 梅野茂夫 矢野正剛 三浦邦俊 椛島修 中村仁 山上知裕 佐藤進 服部弘昭 荒牧啓一 金弘正則 村山博俊 松本光二 山喜多浩朗

右山喜多浩朗訴訟復代理人弁護士 安部千春

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一申立

控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、マンション分譲に際し、区分所有者の共有となるべき敷地の一部に複数の駐車区画を設け、その専用使用権を駐車場の使用を希望する各購入者に有償で譲渡して対価を収受したマンション分譲業者である控訴人に対し、区分所有者全員によって構成される管理組合において、代表者である理事長の名により、主位的には不当利得返還請求権、予備的には委任契約における委任者の受任者に対する委任事務処理上受取った金員の引渡請求権に基づき、右駐車場使用権の譲渡代金の総額にあたる二四四〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求し、控訴人は、右金員は控訴人の正当な営業利益として収受したものであると反論して不当利得返還及び受取物引渡の各義務の存在を争ったが、原審は、被控訴人の予備的請求を認容したため、控訴人が右判断を不服として控訴した事案である。

二  当事者双方の主張は、原判決七枚目裏八行目に「被告はその報酬(手数料)として」とあるのを「控訴人は右駐車場専用使用権の譲渡の対価として」と改めるほかは、原判決事実摘示中の「第二 当事者の主張」に記載のとおりであるから、これを引用する。

第三証拠

原審及び当審記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四判断

一  当裁判所も、被控訴人の請求(予備的請求)は正当であると判断する。その理由は、原判決一三枚目表末行から同二〇枚目表五行目までを以下のとおり改めるほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

2 控訴人による駐車場専用使用権分譲の法的性質

(一)  控訴人と本件マンション購入者らとの間の各土地付区分建物売買契約書(全員に共通の定型書式で、売買目的物件、代金額及び代金支払方法の記入が個別になされたもの。甲三号証及び同二一号証の一は購入者二名の分)には、売買代金につき「但し、駐車場対価としての代金○○円を含む。」との記載があり、また、本件マンションの買主は、本件敷地の一部を駐車場として特定の区分所有者に専用使用させることを承諾するという趣旨の条項がある。そして、本件マンション購入者のうち駐車場専用使用権の分譲を受けた者の売買契約書には、売買目的物件の表示の中に「駐車場」として特定の駐車区画の番号が表示されているが、駐車場である特定の駐車区画につき、いかなる権利が売買の目的とされたのか、「駐車場対価」とはどういう意味か、対価を取得するのは誰で、いかなる権利ないし立場に基づいて取得するのかは明かにはされておらず、もとより、買主において、売主である控訴人が駐車場の専用使用権を分譲する権限を留保することを承諾する、ないしは、控訴人が駐車場専用使用権譲渡の対価を取得することを承諾するなどの趣旨を明記した条項はない。

控訴人が売買契約締結時に本件マンション購入者全員に交付した重要事項説明書(甲一八号証及び同二一号証の二は、うち二名の分)には、特定の区分所有者は、各駐車区画を専用使用することができ、一区画当たり月額五〇〇円の「専用使用共益費」を管理組合に支払うべき旨の記載があるのみであり、駐車場専用使用権の性質、効力、存続期間や、専用使用権取得のために支払われる対価の趣旨及び帰属先、これと右「専用使用共益費」との関係などについての説明は記載されていない。

また、控訴人が作成した本件マンション管理組合規約案(甲一号証によれば、これは、控訴人において、昭和五七年一月二八日住宅宅地審議会答申による中高層共同住宅標準管理規約及び改正区分所有法に基づき、将来、管理組合が結成され、組合規約が制定される際の参考試案として作成したものにすぎないと認められる。)には、専用使用権とは特定の区分所有者が敷地等の一部を排他的に使用できる権利であるとの定義規定が置かれ、区分所有者は、特定の区分所有者が駐車場等につき専用使用権を有することを承認するなどの条項があるが、右定義規定は、単に専用使用権者は当該部分を専用使用できる旨を表現を変えて記述したものにとどまり、法的な性質、効力等について明らかにしたものではなく、また、右規約案上、専用使用権の設定、廃止、変更等についての明確な定めは見当たらない(なお、甲二八号証の六によれば、右標準管理規約は、昭和五八年一〇月までに、駐車場専用使用権は管理組合が設定する旨の明文を付加して改正されているが、右試案にはこの改正は反映されていない。)。

右のとおり、右契約書等の条項等の記載によっては、本件マンションの駐車場専用使用権の法的性質、内容、効力等を確定することはできず、また、控訴人がどのような権限ないし立場に基づいて、駐車場専用使用権の分譲を行い、対価の交付を受けたのかも不分明であるといわざるを得ない。

(二)  一方、控訴人は、本件マンションの各売買契約締結と同時に、各購入者全員との間で個別的に、購入者は、本件マンションの建物、敷地等の管理に関する業務を控訴人に委託する旨の管理委託契約を締結しており(乙一号証)、これに、本件マンションの竣工後六か月以内、または入居者が八〇パーセント以上となったときは、管理組合に右業務を引き継ぎ、委託契約を解除する旨の約定があることに照らし、分譲完了により区分所有者全員の共有となるべき本件敷地の管理に関する事項は、区分所有者全員によって構成される管理組合の業務に属するところ、控訴人は、本件マンション購入者各人に対し、管理組合が発足するまでの間は、控訴人においてその業務を行う旨を約したものと解される。そして、右契約の趣旨にしたがえば、控訴人が本件敷地の一部である駐車区画を購入者中の希望者に割り当て、対価を収受した行為は、管理組合が正式に発足するまでの間、駐車場の使用関係を暫定的に定める必要があるところから、購入者全員から委任を受けた、本件敷地の管理という受任事務を処理すべき控訴人の責務の履行の一環として行われたものであり、したがって、控訴人による対価の収受も、購入者全員のためになされたものと解することが可能である。

しかしながら、控訴人は、駐車区画の割り当てに伴って収受した金員を自己の利益として保持し、返還ないし引渡義務を争っているのであり、このような控訴人の態度に照らすと、控訴人は、本件マンションの分譲にあたり、営利の目的で、売買の目的物に含まれる本件敷地に駐車区画を設け、各区画につき、マンション購入者中の希望者に対し、駐車場専用使用権を譲渡したとして所定の対価の支払を受け、これを自己の利益として収受したものと解するほかない。

3 控訴人による駐車場専用使用権分譲の効力

(一)  本件マンションの各売買契約においては、建物の各区分所有権とともに本件敷地の共有持分も目的とされていたのであるから、分譲が完了した後は、本件敷地は区分所有者全員の共有となり、本件敷地の一部を駐車場として特定の区分所有者が専用使用する権利を設定することを含め、その管理使用(用益)に関する事項は、共有者である区分所有者全員の意思によって決定されるべきことがらである。したがって、分譲完了後は本件敷地について何らの権利も保有しなくなる控訴人はこれに容喙し得る立場にはないし、また、専用使用権を有する区分所有者に対し駐車場を専用使用させる義務を負担し、かつ、右専用使用により当該駐車場部分の使用ができないという損失を受けるのは、他の共有者(区分所有者)であって、控訴人は何らの義務も負担せず、損失を受けることもないのであるから、控訴人が駐車場専用使用の対価を自らの利得として収受し得る根拠はない。

更に、混同の法理により、本件敷地を所有していた控訴人において、自己の意思のみによっては、分譲前にあらかじめ本件敷地につき自己のために地上権、地役権、賃借権、使用借権その他の用益権を設定しておくことはできないのであるから、右用益権が付着した状態で本件敷地を売却し、これとは別に用益権を他に譲渡し得る余地はない。

してみると、控訴人において、本件マンション購入者に対し、建物区分所有権とともに本件敷地の所有権(共有持分)を売却し、なおかつ、購入者の一部に対し、別個に本件敷地の一部の駐車場専用使用権を有償で譲渡したというのは、結局のところ、一物を二重に譲渡し、あるいは、自己に属さない権利を譲渡したことにほかならないのでないかという疑念が生じるところである。

(二)  右の点について控訴人は、本件マンションの分譲に際して控訴人は駐車場専用使用権を譲渡する権利を留保し、マンション購入者らは右の権利留保を承認していると主張するのであるが、右にいう専用使用権を譲渡する権利の留保の趣旨が、のちに譲渡することを予定して、本件敷地が控訴人所有である段階で専用使用権を設定しておいたというのであれば、前記のとおり法律的に不可能なことといわざるを得ない(社会的事実として専用使用権の設定と本件敷地の譲渡が同時になされたとしても、論理的には専用使用権の設定が先行し、マンション購入者らには右使用権に相応する権能を欠いた本件敷地の所有権が譲渡されることになるから、結論に変わりはない。)。

したがって、控訴人の主張するところは、控訴人は、本件マンション購入者らに対し、本件敷地所有権の、専用使用権以外の部分を売却したものであるが、右購入者らは全員これに同意しているから、この売買は有効で、控訴人のもとに専用使用権が留保され、控訴人は右専用使用権を譲渡したものであるという主張と解すべきこととなるので、すすんで検討を加える。

(三)  この駐車場専用使用権については、土地付マンションの分譲者は、購入者全員の承認があるときは、マンションの敷地の一部につき、駐車場として専用使用する権利を有償で購入者中の一部の者に譲渡する権利を留保し、または、購入者中の一部の者に有償で専用使用権を設定する権利を留保したうえで、この留保された権利に基づき、駐車場専用使用権を譲渡もしくは設定し、その対価の支払を受けて、これを自己の利得とすることができるとの考え方がある。

これを一般化すると、土地の売買にあたり、所有権を用益権と用益権を除いたその余の部分とに分離し、それぞれ別個に処分することは、契約自由の原則により、売主と買主の意思の合致があれば、可能であり、許容されるということになる。しかし、このような土地所有権の中味の分離処分とでもいうべきものは、これが仮に行われることがあるとしても、極めて特殊な場合に限られると考えられ、もとより、通常人が、その法的な意味、性質、拘束力などを常識として理解し、社会的に相当公平な取引の一形態として是認しているというものではないうえ、これにより、売主は、土地所有権(ただし、用益権に相応する権能を欠くもの。)譲渡の対価と用益権譲渡の対価とを得ることができ、両者の設定の仕方によっては、単純な土地売買の場合を上回る利益を取得し得る可能性があり、しかも、売主は、土地用益に関して何らの義務も負担しないのに対し、買主は、売主が他に譲渡または設定した用益権によって制限された土地所有権を取得するにすぎず、更には、売主が取得した用益権の対価が将来にわたる土地使用の対価の前払いの趣旨である場合は、ただ用益させる義務を負担するのみで、所有権の実質的な価値を享受できないにもかかわらず、低下した価値に相応しない高額の代金での買受を承諾してしまうなど、不公正な取引となるおそれがある。したがって、このような分離処分の合意は、それ自体直ちに無効とはいえないとしても、合意の成否、なかんずく買主の意思の存否の判定は慎重になされるべきである。

(四)  特に、土地付マンション分譲の場合は、売買契約の主たる目的は建物の区分所有権であり、建物の敷地である土地は、耐用年数の長い堅固な建物が存在するため、独立した財産としての意味はないといってよく、しかも、土地所有権は多数の購入者に細分化された共有持分として売却されることから、購入者は、自己の取得した敷地の共有持分が、敷地全体に及ぶ使用収益権を含む全面的な支配権たる所有権の割合的な一部にほかならないことを十分に意識せず、そのため、共有者が共有敷地の一部である駐車場を使用するにつき、なぜ土地自体については何らの権利も有しない分譲者に対価を支払わなければならないのか、共有敷地の一部を特定の共有者が駐車場として専用使用することにより、他の共有者は当該駐車場部分を使用できないという損失を受けるのに、専用使用の対価が共有者に支払われず、分譲者が取得するのはいかなる根拠によるものかなどの疑問を抱かないまま、土地付マンション分譲あるいは駐車場専用使用に関する契約の締結に及んでしまうおそれがある。また、一般消費者たる購入者は、専門の分譲業者が定めた一律の契約条件(約款)にしたがって契約するかしないかの自由しか持たず、対等の個別交渉及び契約条件の設定によって実質的公平を保持し得る余地は皆無といって良いことに鑑みると、この場合に契約自由の原則を適用するのは、不公平な取引を是認し、助長する結果になるだけではないかと考えられる。

これに対し、マンション分譲者は、駐車場専用使用権の分譲により利益を得られることを考慮してマンション自体の販売価格を低く設定しているから、駐車場専用使用権の分譲により二重に利得してはおらず、他方、駐車場専用使用権の分譲を受けなかった購入者は、同使用権の代価を支払って分譲を受けた者の負担のもとに、低い価格でマンションを取得できるのであり、かくして右三者間の実質的公平は保たれており、不公平な取引とはいえないという見解がある。しかし、分譲者がマンションとは別に駐車場専用使用権を分譲することにより利益を得ようと企図していることは明らかではあるものの、右利益を計算に入れてマンション自体の分譲価格を引き下げ、全体として利益が不当に大きくならないように自らを律しているのか、それとも、マンションの分譲価格及びこれによる利益を引き下げることなく設定し、右による利益を取得しながら、更に利益を上乗せするために駐車場専用使用権の分譲という方策を取ったのかについては、これを客観的に検証し、判定する手段はないのであるから、右見解には根拠がないというほかない。また、当該マンションの周辺市場において、一定の規模、規格のマンションの相場価格というものがあり、これを超える販売価格を設定すると競争力を失うため、マンション自体の販売価格を低く設定せざるを得ず、分譲者が正当な利益を確保するには、駐車場などの専用使用権の分譲という方策を取らざるを得ないという論理があるが、仮に、このような経済的観点からの議論に幾分かの妥当性があるとしても、それによって、駐車場専用使用権分譲の法的な正当性が基礎付けられるものではない。

(五)  ところで、建設省は、各都道府県知事及び関係業界団体に宛て「民間分譲中高層共同住宅(分譲マンション)に係る施工管理の徹底、取引の公正の確保及び管理の適正化について」と題する通知(昭和五四年一二月一五日建設省計動発第一一六、一一七号、建設省住指発第二五七、二五八号。甲二八号証の一)を発し、分譲マンションにつき、いまだに適正を欠く取引等があり、購入者からの苦情が減少を見ないので、各注意事項につき、より一層の周知徹底及び指導を行い、関係法令の適正な執行に配慮することを求めたが、そのうち「共有敷地における使用収益関係等の明確化」として「共有敷地及び建物の共有部分の権利関係、使用収益関係をめぐって紛争を生じる事例が多いことにかんがみ、取引段階においてこれらを明確にすること。特に、分譲業者が共有敷地等に専用使用権を設定してその使用料を得る等の例は、現在少なくなっているが、取引の形態としては好ましくないので、原則として、このような方法は避けること。また、専用使用権の設定に当たっては、存続期間、使用料等について公正かつ妥当なものとし、これらを管理規約等において明定するとともに、これから生ずる収益等については、修繕積立金への繰り入れにより区分所有者の共有財産に帰属させる等公正な処理を行うこと」としており、また、宅地建物取引業法の改正により、同法三五条一項五号の二、同施行規則一六条の二第三号に、共有部分に関して専用使用権があるときは、その内容を重要事項説明書の中で説明しなければならない旨規定されたことを受け、各都道府県主管部長に宛て「宅地建物取引業法及び積立式宅地建物販売業法の一部を改正する法律、宅地建物取引業法施行令及び地方公共団体手数料令の一部を改正する省令の施行について」と題する通達(昭和五五年一二月一日建設省計動発第一〇五号。甲二八号証の二)を発し、改正法令の周知徹底、法の運用に万全を期するべき旨を求めているが、そのうち、重要事項説明書における駐車場専用使用権に関する説明の具体的内容につき「専用使用権は、通常、駐車場、専用庭、バルコニー等に設定されるものであるが、このうち駐車場については特に紛争が多発していることにかんがみ、その『内容』としては、専用使用をなしうる者の範囲、専用使用料の有無、専用使用料を徴収している場合にあってはその帰属先等を記載すること」としている。

これらの通知・通達は、これが発せられた昭和五四、五五年当時、マンション分譲者が区分所有者の共有に属する敷地の一部に自己のために駐車場専用使用権を設定し、当該駐車場を自ら使用し、あるいは、他に賃貸して賃料を収受するなどして、敷地の共有者であるマンション区分所有者との間で紛争を生じる例が後を絶たないという背景のもとで、このような分譲者の行為は、不公正な取引にあたるおそれがあり、専用使用権を設定するとしても、その存続期間や使用料につき、管理規約等に公正妥当な定めをし、その収益は区分所有者の共有財産に帰属させるべきであり、かつ、法令にしたがい、これらの点を購入者に周知させるため、重要事項説明書に明記しなければならないとするものであり、これは、共有敷地の一部を駐車場として専用使用させることによる対価は、本来、共有敷地の所有者すなわち区分所有者全員ないしこれによって構成される管理組合が収受すべきものであり、分譲者が不明確な説明をし、十分な理解と認識を持てない購入者から形式的な承諾を取り付けただけでは、契約自由の原則の名のもとに、共有敷地を駐車場として自ら専用使用し、あるいは、他に賃貸して収益を得るなどの分譲者の営利行為を正当化することはできないという見解に基づいているものと解される。これらの通知・通達は強行法規ではないから、これに反するからといって、分譲業者による駐車場専用使用権の設定及び対価の収受に関する契約を無効ならしめるものではない。しかし、少なくとも、このような通知・通達の趣旨に合致しない契約の効力を制限的に解釈することの根拠とはなり得るものと考えられる。

(六)  本件マンションの場合、前述のとおり、各土地付区分建物売買契約書及び重要事項説明書の条項や記載内容からは、売買の目的物に駐車場専用使用権が含まれるのかどうか、控訴人がどのような権限ないし立場で専用使用権を設定し、対価を収受するのかはもとより、駐車場専用使用権の性質、効力、存続期間等も不明であり、定まるところがないというほかなく、駐車場専用使用権の分譲を受けた本件マンション購入者において、取得した権利がどのような効力を有するのか、支払った対価が何の代価であるのか、本件敷地の共有持分に対応する分を含めて売買代金を支払ったのに、更に駐車場専用使用権を取得するために対価を支払わなければならない根拠、対価を控訴人が収受し得る根拠は何なのかなどの契約の基本的な部分について、明確な理解と認識を持ち得たとは解されず、駐車場専用使用権の分譲を受けなかった購入者も、他の区分所有者が駐車場を専用使用することにより自己が受ける不利益がやむを得ないものかどうか、その不利益がどの程度のもので、いつまで継続するのかなどについて十分理解したうえで、駐車場専用使用権の設定があることを承諾したと解するのは困難である。

してみると、本件マンションの分譲に際し、控訴人と購入者全員との間において、控訴人が駐車場専用使用権を分譲し、対価を得ることについて、有効な合意が成立したと解することはできないというべきである。

4 被控訴人の控訴人に対する金員支払請求について

(一)  以上のとおり、控訴人による駐車場専用使用権の分譲はその効力を否定すべきであり、したがって、控訴人が収受した対価は法律上の原因がないのに取得した利益にあたるから、その返還請求として、本件敷地の共有者は、控訴人に対し、同人が駐車場専用使用権の対価として収受した金額と同額の金員の支払を求めることができると解される。

(二)  また、委任契約に基づく受任事務を処理するにつき、受任者が外形的に委任の範囲内に属する行為を自己のためにする意思のもとに行い、これにより金員を収受したときは、委任者は、受任者に対し、右金員を委任事務処理を行うにつき収受したものとして、受取物引渡請求権を行使できると解される。

本件の場合、前述のとおり、控訴人は、本件マンションの購入者すなわち本件敷地の共有者全員との間で、本件敷地の管理に関する業務を行うことの委任を受けていたものであり、本件敷地の一部につき、特定の共有者のために駐車場として専用使用することを許諾した行為は、外形的に右委任業務の範囲に含まれるということができるから、委任者すなわち共有者の全員によって構成される管理組合は、控訴人に対し、同人が右専用使用権分譲の対価として収受した金額と同額の金員の支払を求めることができることとなる。

(三)  以上の次第であるから、本件マンションの区分所有者すなわち本件敷地の共有者全員によって構成される管理組合の代表者である被控訴人が、管理組合のために、控訴人に対し、駐車場専用使用権分譲代金の合計額である二四四〇万円及びこれに対する本件訴状送達(請求)の日の翌日である平成二年一〇月二六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は正当である。

二  よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 池谷泉 裁判官 川久保政徳)

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